アトリエDEF:水やいのちやエネルギーが循環する、まるで小さな地球のような「循環の家」(長野県原村)
気持ちよく青空が広がり、遠くに八ヶ岳が望まれるある日、長野県原村にある「循環の家」のモデルハウスにうかがいました。火山灰シラスを原料とした塗り壁の外観がモダンな印象です。無垢材の自然な色合いのフローリングや柱に心が和み、大きな窓から注ぐ柔らかな陽光に、ゆったりした気持ちになります。
その窓から見える庭には、何やらこんもりした土盛や小さな水路、池など、普段はあまり見かけない風景が広がっています。
モデルハウスの生活排水は、浄化槽を通ってから、庭にあるその小さな水路バイオジオフィルターへ流れます。すると、そこに棲む微生物が栄養素を分解し、植物が吸収して浄水され、その先にある生き物が生息する小さな池ビオトープへと流れ込みます。この浄水システムのおかげで、ビオトープは、メダカも泳ぐきれいな水質を保つことができるのです。
やがて、ビオトープの水は蒸発し、雨になり、それを雨水タンクに溜めて利用します。これが、ここで提唱している循環の一つ「水の循環」です。
また、ここには、ミミズコンポストがあり、生ゴミを食べたミミズ君のウンチが上質な肥料となっています。それを畑やキッチンガーデンに使い、そこで採れた野菜を食べます。そして、その残りを、またコンポストへ……。これまた、循環の一つ「食べ物の循環」です。
こうした水や食べ物、いのち、エネルギーの循環は、まるで小さな地球のようです。
スタッフの高橋巴さんは、
「ここでの循環は、地球全体から見れば小さいかもしれませんが、その小さな循環が、あちらこちらに芽生えて積み重なることで、大きくなっていくんだと思います。『循環の家』で過ごしていると、大きな大きな自然の循環の中に自分もいるんだと気づくことができるんですね。そして、自分自身にも役割があり、人も自然の一部なんだと感じます」
モデルハウスの浴室からは、遠くに八ヶ岳連峰、目の前には緑の木立が広がる素晴らしい景色が見えるんですが、まさに、これほどの贅沢はありません。でも、それは地球の自然環境を借りて、自分のものにしているという、実はちゃっかりした贅沢なのです。
最後に「たとえ都会のど真ん中に住んでいても、ベランダにミミズコンポストを置いたり、
プランターで野菜やハーブを育てたり、できることは色々あります。田舎ではできないことを見つける楽しさもあると思いますよ」と、いろいろと提案もしてくれました。
小さな地球を感じる「水の循環」
原村の「循環の家」のモデルハウスの庭には、小さな水路があり、そこにはモデルハウスから出た排水が流れ込んでいます。そして、その先は、生き物が生息する小さな池ビオトープにつながっています。
水路では、土壌中の微生物や石・砂利などで水がろ過されることで汚水が浄化されます。これを「バイオジオフィルター」と言うのだそうです。このため、ビオトープには綺麗な水が流れ込み、メダカや水棲昆虫が育ち、そして、それを餌にするカエルや鳥が集い、自然の環境が再現されるのです。
ところが、水路では浄化されないものがあります。合成洗剤やシャンプー、化学調味料など化学物質由来の製品です。つい、流してしまうと、とたんにビオトープのきれいな水が保たれなくなるので、それに気付くことができるのですが、普段の私たちの生活では、汚水を下水として流してしまうので、その状況が見えず、実感ができないのではないかと思います。
さて、庭の片隅には雨水タンクが設置してあるのですが、タンクに溜まった水は、トイレの排水や下水に使われて水路に流れ、蒸発して空に還って雨となって地上に降り注ぎます。そして、また雨水タンクに溜まるのです。これが、ここで提案している循環の一つ「水の循環」です。
自然の中に自分がいることを確認する「食べ物の循環」
モデルハウスには、ミミズコンポストが設置してあります。ヒノキで作った箱の中に、腐葉土とシマミミズを入れたものです。その上に生ゴミを置いておくと、シマミミズ君がそれを食べてウンチをします。1日掛けて自分の体重の半分くらいの生ゴミを食べるそうです。
そうすると、ミミズのウンチには、バクテリアや微生物がたくさん含まれているため、栄養分を豊富に含んだ上質な肥料(堆肥)ができます。
「野菜くずを入れるときは、その上に少し土を被せてかき混ぜます。毎朝、そうしながらミミズ君に“おはよう”のあいさつをするのが日課になっています」とスタッフの弁。
できた肥料は、庭にあるスパイラルガーデンや畑に使います。スパイラルガーデンは、渦状に土を盛り、その頂点を一番高くして、螺旋状に高低差を持たせた菜園です。その高低によって日当たりや湿気、水・風の流れの具合が変わり、異なる気候条件を作り出すことによって、小さなスペースでも好む環境の違う様々な種類の植物を1箇所で栽培することができるのです。
そこで育った美味しい野菜を食べ、残った部分は、またコンポストへ……。これもまた循環の一つ「食べ物の循環」です。
そして、この循環は、何も広い庭がなければできないものではありません。アパートのベランダでも十分です。小さなコンポストを用意して、プランターでハーブや野菜を育て、食べて、残りは……。
「生ゴミがコンポストで土になることによって野菜を育て、私たちは、それを食べることができます。種を植え、芽が出たとき、花が咲いたとき、実がなったときの感動、そして、それを食べたときの幸せな気持ちは忘れることができませんよね」と高橋さん。
循環の家では、ほかにも、太陽光パネルや太陽熱温水器による「エネルギーの循環」、薪やペレットのストーブ・ボイラーを活用し、間伐など森の手入れを推進する「森の循環」などが提案されています。地球に暮らす、すべての生物が担う、それぞれの役割
循環の家の発想は、長野県上田市に本社のある工務店「アトリエDEF(デフ)」さんで生まれました。DEFさんは創業から16期。この間、一貫して、自然素材で木の家をつくり続けてきました。
アトピーやシックハウス症候群で苦しんでいる人と出会ったことがきっかけで、自然素材による安全な家づくりをする決意をし、今に至っていますが、住まい手さんからは心地良く暮らしているという声が届いています。
また、ゴミを増やしたくないという思いから、いずれ家が壊されることになっても、なるべく土に還る素材を選んでいるそうです。
そんなDEFさんが、なぜ新しい一歩である「循環の家」を立ち上げたかというと、家が自然素材であったとしても、食べる物に気を遣わなければアトピーは治らないし、家自体が土に還っても、使っている洗剤などが地球を汚すものであれば意味がないのでは…というようなことを、ふと考え始めたからだそうです。せっかく木の家なのに……、せっかく空気はいいのに……みたいな。
そこで、モデルの家を造って、自分たち自身が水や食べ物やエネルギーを循環させる生活を実践し、体験して、できたことから皆さんに少しずつでも提案していこうということになったのです。
こうして循環の家モデルハウスがグランドオープンしたのが2010年5月でした。
「家は、住む方の居心地の良さや楽しさが大切ですが、そこに自然の仕組みをプラスすると、自分が大きな自然の一部であり、息づくすべてのものたちとつながっていると感じることで、より楽しく感じたり、うれしさが増したりします。また、皆が共に生きているんだから、皆で一緒に幸せになりたいと思うと、ちょっとだけ責任感が沸いてきたりもする、『循環の家』では、そんなことを感じていただけると思いますよ」と高橋さん。
循環の家は、いつでも見学&体験ができるそうです。
国産の燻煙木材による土に還る家づくり
循環の家の目的は、家と庭と暮らしが一体となった循環の仕組みを伝えたいというものです。そのため循環の家+DEFさんは新築・リフォームの設計事務所としての役割を担い、施工は地域で理解をいただいた工務店さんにお願いしています(エリア内であればDEFさんも施工)。もちろん、新築ではなく、今の生活の中に小さくても循環を取り入れたいという要望にも応えています。
ただ、循環の家を実現させるには、土に還る家でなくてはいけません。それを実践するためにDEFさんがこだわっていることの一部を紹介しましょう。
DEFさんでは木材は、すべて国産材を使用し、輸入材は一切使わないそうです。なぜなら、1つは産出国と日本の気候が違うこと。もう1つ、これが重要なポイントですが、輸入の際には、必ず消毒、防腐処理、防虫処理が施されることです。船から港に荷揚げされた木材は、大きなテントの中に入れられ、薬剤処理をたっぷりとされます。マスクをして、煙モコモコみたいな状況を見てしまうと、それを使おうという気持ちにはならないとのこと。
さらに、国産材であったとしても、燻煙乾燥か天然乾燥されたものに限っています。一般的には高温乾燥が主流ですが、木は切られても、まだ生きているので、一気に高温で乾燥させると、繊維が死んでしまうのだそうです。すると何か揺れとか圧力がかかったときに折れやすいという実験結果が出ているのです。これに対し燻煙乾燥は、低温でじっくり時間をかけて乾燥させるので、繊維が死なずに粘りがあるのだとか。ただ、高温乾燥は2~3日でできるのに対して、燻煙は1~2週間ほど窯に入れて、その後、1~3か月間、外で乾燥させるなど、手間がかかります。それだけに、多少、値段は高くなりますが、地震災害から命を守る役目は、それには代え難いということなのです。
ほかにも、いろいろとこだわりを持って家づくりを進めるDEFさんなので、少し予算と合わないこともあります。そんなときでも、安い新建材や壁紙にするという選択はありません。費用を抑えるために提案することは、例えば、坪数を減らすとか、ウッドデッキは自分で造るとか、あるいは、収納部屋に扉を付けずに整理整頓を頑張るなどといったことです。それを、どう受け止めるかはお施主さんにお任せしているそうです。
やさしい暮らしを提案するBioマルシェ
5月~11月の毎月第3土曜日(7・8月は土日)に、小諸市のエコビレッジで、「Bioマルシェ」が開催されています。
マルシェとは、フランス語で市場という意味。Bioマルシェは、木もれび注ぐ木立の中に、農家さんこだわりのお米や野菜、天然酵母パン、手作りのお菓子や雑貨、お母さんの自家製ハーブ、ナチュラルな香りのソイキャンドル、オーガニックコットンの布小物といったお店が軒を連ねていて、素敵な暮らし方を提案してくれます。
主催しているのは、オーガニックコットン製品の企画・製造・販売を手がけるアバンティ(東京都新宿区)さんとアトリエDEF循環の家事業部の共同です。
もともとアバンティさんが、自然との共生による持続可能な環境にやさしい暮らしの実現と都市と農村の交流を実現しようと、その実践と学びの場として小諸エコビレッジの事業と施設の運営を始めたのですが、その施設内の建物の常設ショップへの改修を担ったのがアトリエDEFさんでした。
お互いが共通の感覚をもっていることを確かめ合った2者が、この場所を知ってもらうきっかけにと企画したのがBioマルシェだったのです。
高橋さんはマルシェについて、
「家を建てるときって、工法のことや断熱材のことなど、家のことだけを考えてしまいがちです。でも、家って、ご飯を作って食べたり、家族が川の字になって眠ったり、庭の手入れをしたり……、そこに住む人の暮らしがあって、初めて息づくものですよね。
“Bioマルシェ”には、化学肥料を使わずに野菜を育てている農家さんや天然酵母のパン屋さん、オーガニックコットンやリネンで布小物を作る作家さんなどが出店していますが、みんなの体や心のこと、子どもたちの未来を考えている方たちとの出会いは、きっと、これからの暮らしのヒントになるはずです」
確かに、家を建てる時間より、その後に生活する時間のほうが長いもの。例えば、アパート暮らしのときはコンビニ弁当ばっかり買っていたけど、DEFさんで家を建て、Bioマルシェに行ったら、手作り弁当を作るようになったばかりか、暮らし方も変わった! なんてことになるのかもしれませんね。
「循環の家」を体験することで、日々の暮らしの中にひと手間かける楽しみを感じていただけたら嬉しいです。家づくりを考えている方はもちろんですが、今の暮らしにもう少しだけ自然に寄り添う意識をプラスしたいと思う方は、是非一度「循環の家」に遊びにきていただけたらと思います。
大きな変化よりも、目の前にある小さな当たり前の変化を始めましょう。
小さな地球が、日本中に、世界中に広がっていくことを願いながら、今日も畑を耕し、汗を流しながら、皆様にお会いできることを楽しみにお待ちしております。
アトリエDEF循環の家事業部スタッフ一同
webサイト | http://www.junkannoie.com/ |
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電話番号 | 0266-74-2205 |
住所 | 〒391-0100 長野県諏訪郡原村字深山16267-7 |
営業時間 | 10:00〜18:00 ( 夏季5月〜11月 ) 10:00〜17:00 ( 冬季12月〜4月 ) |
定休日 | 水曜日(臨時休業あり) |