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クラフトギャラリー Art in Craft(アート・イン・クラフト):陶器、版画、ドローイング、竹紙、雑貨手芸作品による生活と空間の演出(長野県東御市)

更新: / 公開: 2012年9月13日 ( ※ 古い情報です ) / 文責:

 

田中駅南口の信号から明神館に向かって県道を登りきり、御牧台地をしばらく走って右側に入った勘六山と呼ばれる小高い丘の上、木立の中の一画にあるナチュラルなログハウスがArt in Craft(アート・イン・クラフト)さんです。

ギャラリーのポーチからは、遠くに浅間山、眼下に千曲川を望む素晴らしい眺めを堪能できます。

オーナーの伊東裕子さんとご主人の純一さんに美味しい珈琲をいただきながらお話をうかがいました。
早速、気になったのはコーヒーカップ。土を感じる素朴な色合いに、つぶつぶと黒い斑点模様が味わいを加え、抽象的で繊細な線刻が魅力的な世界を生み出しています。持ってみると、とても軽くて、手にしっくりと馴染み、自然に親しみが湧いてきます。

このカップを創ったのが角りわ子さん。ここで展示・販売している作家さんの一人。そうArt in Craftさんは地元で活動する女性クラフト作家4人の作品を中心に扱っているクラフトギャラリーなのです。
実は角さん、この勘六山で晩年を過ごした直木賞作家の故・水上勉先生に呼ばれ、この地に居を移したお弟子さんの一人。茶碗や皿、花瓶などの陶芸作品が展示されています。

「“art”には“芸術”以外に“技術、方法”などの意味があります。The art of the cockingで“調理法”ですから、Art in Craftは“手工芸における技術”のような意味合いになるでしょうか。いわゆる芸術的センスも垣間見えるクラフト作品を扱いたいという思いがあり、この名前を付けました。
アートギャラリーではないので、茶碗やお皿、壁掛け、敷物など、見たものを自分の生活にもフッと取り入れられる気安さ、親しさをお届けしています。作家の皆さんは専門に勉強を重ねた方ばかりで、その作品には本物の持つ深い味わいがあります。でも、同時に親しみやすさもあり、クラフトだけどアートも感じられるような作品ばかりだと思います。ぜひ、気軽に立ち寄っていただければうれしいですね」と伊東さん。

確かに作家の一人である松本冬美さんのエッチングの壁掛けは、自然な色合いの下地に、デザインされた文字で言葉がつづられ、掛けられた壁付近一体の空間が上質な印象に変わります。
さらには、南フランスの家を模したミニチュア陶器は、箱庭的に街並みを再現できます。それはまさしく大人の楽しみと言えます。

やはり、水上先生のお弟子さんだった小山久美子さんは、珍しい竹紙作家。この勘六山に生えている竹を使って紙を漉いているんです。繊維の入り方によって1枚の表情が違い、その風合いは美しく、肌ざわりは優しく、紙といっても、まさしく1枚1枚が作品なのです。それだけに書家や画家の皆さんに愛されています。また、器の敷物として使ったりすると、きっと素敵な時間を作れるでしょうね。

そしてそして、伊東裕子さんも作家の一人。麻ひも、フィードサックなどを材料にHarvest Moon(ハーベストムーン)のブランドで、バッグやパッチワークキルトなどを制作しています。

住宅の部屋はもちろん、飲食店や美容院など店舗の空間演出などに取り入れてみてはいかがでしょう。

地元の女性作家が集うギャラリー

Art in Craftさんのログハウス内のギャラリーは、木の香と温もりが感じられ、とても落ち着きます。また、オーナーの伊東さんご夫妻が趣味で集められた陶器の皿やカップ、また、ヨーロッパの木彫り人形などが飾られていて、上質な空気も感じられます。
そして、その2階で、東御市八重原に集う4人の女性クラフト作家さんの作品を中心に展示・販売がされているのです。
伊東さんご夫妻は、10年ほど前に横浜から信州に移住してきたのですが、家の近くにあったのが、故・水上勉先生の工房「勘六山房」でした。先生は晩年をそこで過ごされ、執筆のほか、自ら竹紙を漉き、土をひねって器を創り、畑を耕していました。
もともとクラフト好きだった2人は先生と一緒に創作に励んでいた作家さんの作品に魅せられ、親交を深めることとなりました。

「皆さん、優れた技術と経歴を持ち、全国で個展を開いている実力者です。そんな素晴らしい作家さんが地元にいらっしゃるのですから、彼女らの作品を広く、より多くの皆様に見ていただきたいとギャラリーを開きました」

と伊東さん。

紹介している作家さんは、陶芸作家の角りわ子さん、造形作家の松本冬美さん、竹紙作家の小山久美子さん、手芸作家の伊東裕子さん。皆さん、この信州の地を気に入って移り住んできました。年齢は50~60歳ということで、作家としては円熟した頃だと思うのですが、作品を見せていただくと、安定した安心感というよりも、何か挑戦があり冒険があり、見ていて、とても刺激されます。まさに、アーティスティックなクラフトなのです。

「彼女たちは皆、自分の作品を鑑賞してもらうだけでなく、お客様皆さんの生活の中の実用品・調度品として生かしてほしいと思っています。だから、自分の家の玄関に飾ったらどんな感じになるかと考えたり、作品の器を使った夕食のシーンを思い浮かべたりしながら見ていただくと良いかもしれませんね」

と伊東さん。

例えば、住宅を新築するときなどに、彼女たちの作品を生かす家、つまりは自分たちの住まう空間から考えるという家づくりがあってもいいかもしれません。また、展覧会がバーで開かれたこともあるのですが、店舗の空間ディレクションとしても魅力的です。

さらに、お客様一人一人のオリジナルな要望に応えるため、大きさや形状などのオーダーメイドにも応じてくれるそうですので、気軽に相談してみてくださいね。

陶器で自然かつ深遠な世界を表現する角りわ子さん

角りわ子さんは、1961年、鳥取県生まれ。同志社大学文学部美学芸術学専攻を卒業後、京都市工業試験場陶磁器研修を修了しています。ここは、陶芸関係の人間国宝を多く輩出したりもしています。1992年京都工芸ビエンナーレ入選。その翌年に水上勉先生に呼ばれ、勘六山房にやってきました。

角さんは、水上先生が「信濃北御牧村(当時)の煉性のつよい畑つちを頑固に焼きつづける作家だ」と言及するとおり、御牧の山の土を掘って、信楽の土と半々ぐらい混ぜ合わせて使っています。伊東さんも、ときどき手伝ったりもするのだとか。
土を掘って寝かすのに時間がかかったり、不純物が多かったり、御牧の土は、けっこう扱いにくいそうなんですが、それだけに、ここの土ならではの表情が出るのだとか。自然で素朴な色合いに加え、不純物による黒い斑点模様が、かえって独特な味わいをもたらしています。
そして、そんな自然な風合いの中に描かれた抽象的で繊細な線刻が、深遠な心象風景を表現し、幾何学模様や縞模様が、どこか異国の情緒を漂わせていて、いつしか角ワールドにはまってしまうのです。ぐい呑から皿、茶碗、ポット、花器、香炉など広く手がけています。

「陶芸って、もちろん芸術的感性が重要ですが、同じくらい土に関する知識が必要なんです。角さんは、勉強家で科学的な知識もあります。だからこそ、扱いにくいと言われる信州の土を生かすことができるんでしょうね。」

と伊東さん。

上質でモダンな版画作家・松本冬美さん

松本冬美さんは1953年、神奈川県横浜の出身。東京藝術大学美術学部芸術学科を卒業、1996年より信州北御牧の工房で、主に竹紙・土・顔料・木などの自然素材を用いて、版画、ドローイング、エッチング、板絵などの作品を制作しています。

エッチングの壁掛けは、自然な色合いの下地に、「笑門来福」といった言葉や漢文・古文がつづられています。デザイン的に表現された文字と線描との組み合わせによって、空間が上質で、かつモダンな印象になります。
また、縦に長い板絵は、淡く繊細な色合いのシェーディングが、空間の雰囲気を緩やかにします。

そして、松本さんのもう一つの顔が、陶器で作られたミニチュアの家。「南フランス」「赤レンガ」「港海岸通」など、家々をレイアウトすることで、ヨーロッパの街並みを再現できるんです。家の一つ一つが確かな技術でに作られているので、質感たっぷりに表現されています。「精巧な」というよりも、印象派の画家が街並みを描いた1枚の絵のような情景が生まれます。それはまさしく大人の心をくすぐる上質なインテリアと言えるでしょう。

ギャラリーを訪れたときには、ぜひ松本さん作の屏風をご覧ください。ほかでは見られない圧巻の作品です。

竹紙をアートにする小山久美子さん

小山久美子さんは、竹紙作家です。そう、竹を原料にして漉いて紙を作っているんです。
1951年、青森県つがる市の生まれ。1992年、やはり、水上先生の勘六山房にて竹紙を漉きはじめ、現在100%地元の竹を使っていて、その美しい質感と強度は定評があります。竹皮は固いため、3日間も煮て5日間も臼でつくとのこと。もちろん、すべて手造りなので同じものはありません。それだけに、全国の書家や画家さんに支持され、愛用されているそうです。

中国福建省に伝わる漉き法にならって萱や山繭を混ぜて作るそうなので、紙を手にとってみると、1枚1枚その表情や肌触りが、それぞれに違います。いずれも、その色合いは美しく味わいがあり、風合いは優しく、紙とはいっても、まさしくアート作品といえます。

ギャラリーでは、ハガキサイズやB5サイズといった竹紙セットが販売されているので、これを機会に、大切な人や、あるいは特別なお知らせなど、竹紙につづった手紙を送ってみてはいかがでしょう。メール全盛の現代ですが、思いを託して相手に届けるという手紙の持つ本来の意味が再確認できるかもしれません。

また、例えば、食卓を飾る器の敷物として竹紙を使ったり、玄関に飾る花器の敷物にしたり、あるいは紙自体に化粧を施して壁に飾るなど、素敵な空間を描き出すこともできることでしょう。

ナチュラル&シンプルなバッグやキルトの伊東裕子さん

オーナーの伊東裕子さんも作家の一人。天然素材の麻ひも、フィードサック(1930~50年代にアメリカで作られていた穀物袋)などを材料にHarvest Moon(ハーベストムーン)のブランドで、バッグやパッチワークキルト・洋服などを手作りしています。そのコンセプトは、“シンプルでさり気ない格好良さ”です。

手編みのバッグは、ナチュラルな風合いを生かした丈夫で使いやすいバッグを提供しているとのこと。確かに持ってみると、優しい手触りで、しっくりと馴染みます。しかも丈夫! 内側に付いた布袋やたくさんのポケットなど機能性も十分です。

荷造りや園芸用の丈夫な麻ひもを使って“かぎ編み”で作ったバッグは、使うひもの太さや色合いで雰囲気が変わります。“こま編み”をメインにシンプルに仕上げたバッグやアメリカ伝統のかぎ編み“crochet star stich”の星型が連なる模様編みのバッグなど、それぞれが手作りなので、材料と作り方の違いによって、すべてがオリジナルの1点ものとなります。
さらには、ポケットの位置とか取っ手とかの要望があれば、半オーダーメイドに応えてくれるとのこと。うれしいですね。

ガーデンでの野点とシンブル、そしてジャムのクイーンハーベスト

ギャラリーのあるログハウスの裏には、ナチュラル・ガーデンが広がっていて、季節ごとに様々な花が咲き、目を楽しませてくれます。
毎年、6月にはオープンガーデンを開催していて、オルラヤ・ホワイトレースやワイルドストロベリー、そして様々な種類のバラが咲き誇り、アフタヌーンティーも楽しめるということで、多くの人が見学に訪れます。

さらに、このガーデンを利用して、ジャパニーズなアフタヌーンティーである野点(のだて)を開催しているんです。

角さんの抹茶茶碗で点てたお茶をいただき、松本さんの陶板に小山さんの竹紙を敷いて、その上にお菓子を盛る、そして、その一連の道具を持ち運ぶための袋は伊東さんということで、まさしく、“生活の中で使うクラフト”というArt in Craftさんのコンセプトを提唱する催しになっています。

そのほかArt in Craftさんでは、「シンブル」という裁縫に使う指貫の販売も行っています。欧州を中心にコレクターが多数いるシンブルは、ウエッジウッドやミントンなどの陶器メーカーなども作っていて、その可愛らしさと精巧さに、収集にはまってしまう気持ちがわかります。ほかに、ヒンジボックスやミニチュア陶磁器なども扱っています。

また、伊東さんご夫妻は、長野県の新鮮な果実を使った甘さ控えめのフレッシュなジャム、旬の野菜のピクルス、マスタードなど美味しい信州を「クイーンハーベスト」のブランドで製造・販売しています。詳しくはこちら → ホームページ http://fruits-jam.com

お店からのヒトコト

一見、普通の家なので、チャイムを鳴らして入るということに気兼ねをなさる方もいらっしゃると思いますが、そんなことは気にせず、気軽に立ち寄ってください。本当に下駄履き、草履ばきで構いません。

そして、とにかく作品を見て、親しんで、身近に感じていただければ幸いです。こんなに素晴らしい作家さんが地元にいることを知っていただければ、うれしいのです。
しかも、皆さん実力をもった方々による本物の作品です。日頃から本物を見ておくということは、ほかでも何かを選ぶときに、きっと役立つことがあるはずです。
美味しいお茶を用意してお待ちしています。

(オーナー・伊東裕子)

webサイト http://artincraft.web.fc2.com/
住所 東御市八重原2686-13
営業時間 11:00~16:00
オープン日 金曜日・土曜日・日曜日および祝祭日