名作紹介 : Donald Fagen (ドナルド・フェイゲン)「I.G.Y.」(「The Nightfly」より) / 国際地球観測年について書かれたAORの名曲
この曲のタイトル「I.G.Y.」とは、「International Geophysical Year」の略で、1957〜1958年に渡って実施された国際科学研究プロジェクトの名称です。自然科学分野が目覚ましい発展を遂げつつある中、地球規模での気象などに関する研究を各国が協力しあって行ったプロジェクトだったようです。
この時代には、「科学」が夢のような未来を約束してくれる魔法のようなものに見えていたのかもしれませんね。さて、その頃の未来に実際に暮らしている私たちの生活はどうでしょうか。
歌詞の内容は「この夢が叶うことはもう分かっている」「海の底を走るグラファイト製の列車に乗れば90分でNYからパリまで行ける」「哀れみとビジョンを持った技術者によってプログラムされたマシンが大きな決断を下してくれる」というようなフレーズ、そしてサビの部分には「なんて素晴らしい世界が待っているのだろう (What a beautiful world this will be) 、なんて自由な素晴らしい時なのだろう (What a glorious time to be free)」というフレーズが繰り返されており、どこか皮肉めいたものが込められた内容になっています。
この曲は1982年に発表された、Donald Fagen (ドナルド・フェイゲン)のアルバム「The NightFly」の1曲目として収録されているのですが、夢のような世界には、どこかで疑わしさを感じてしまうという、人間の直感はいつの時代も変わらないものなのでしょうね。
私個人としても、このアルバムはとても好きな作品で、「無人島に1枚だけ持っていくとしたら?」うん、コレを選びます。他の楽曲も本当に素晴らしく、録音作品としてはこの The Nightfly を超える作品というのは、今後も出てこないのではないかな、という気がしています。
楽曲自体の良さはもちろん、この曲を構成している各音の配置バランスなども素晴らしく、各楽器がそれぞれ洗練の極みともいえるような演奏で曲を支えつつも、全体としてぶつかり合うこと無く、時間軸でもハーモニー軸でも、とても「建設的」に作られています。
例えば、あえて1拍目の直前でベース音を切り、そこにバスドラムの音が入れ替わるように入ることによって、音の重みを分散していたり、2拍目と4拍目に入っているスネアドラムの音の長さに、キーボードのスタッカートの長さを合わせて演奏していたりと、まぁ、ほんとに呆れるほどに完璧な音作りをしてあります。
このアルバムに関しては、日本の音のマエストロ、冨田恵一氏による解説本も出版されていますので、読んでみるとより深く理解できるのではないでしょうか。( 私はまだ読んでいないのですが… )
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