今すぐでも旅に出られる
旅に出るというのと旅行に行くというのは随分違う。
旅に出るのなら日帰りでも半日でも出来る。
慣れてくれば1時間の散歩も旅になる。
旅は目的がなくてよく、非効率で非生産的で意味のないものでいいのだ。
他人に話したら”なぜそんなことを?”と言われるくらい。
その感覚が落ち着かない人は自分で何かを運転してどこか行こうとするより、
公共交通機関を利用するのがいい。連れて行かれる感覚、流される感覚を感じるのが大切だから。
よく知らない路線のバスに乗って、各駅停車の電車に乗って、何もないところに行く。
目的ではなく、おおよそどの方角に向かうかくらいは決めておく。
それか目的地を決めるけれど、そこで何をするかは決めない。
目的地も単なる指標に過ぎない。
そしてそれらも、気が変わったら途中で変更していい。
きっとその途中で色々なものが見える。普段意識しなかったものが見え、
それらに心を揺さぶられる。それはとてもささいな何かなのに、
急に涙腺が揺るんだりほころんだりするのだ。
旅はずっと”途中”でいい。
例えば、ふと思いついた場所で降りて、
目に入った小さな喫茶店で珈琲を飲んでどこかのベンチに座ってただ時間を過ごす。小さな町のシャッター商店街をゆっくり回って誰かとたまたま話をする。
ただその時間だけを過ごす、その連続が流れていく。
その連続の流れの中に居るとき、思いもよらないことが起きたりする。
もちろんそれを期待してはいけない。
何も探さず何も求めず、ただそのときの自分の感覚を信頼して時間を過ごすだけ、ただそれだけでもう十分なのだから。
本を持っていくなら普段は時間を取って読むことが勿体ないと思うものを。
そしてメモ帳とペン、音楽もあっていい。
きっとこのとき、”文字を書く”という行為が”文字を打つ・入力する”という行為と根本的に違うものだと知る。
流されてみよう、けれどそれはただただ受身なわけではない。
流れに戻ってその中にちゃんと居る、そんな感覚なのだ。
ある知人の話、彼女はずっとどこか旅をしていた。
どこで何をしているかはいつも違っていたけれど、ある日帰ってきて小さなカフェを開いた。
それからはお店に掛かりきりで旅に出なくなった。
旅に出たくならないの、と私は訊いた。
彼女は答えた。
ずっと旅をしていて気付いた、私はもうどこに居ても旅をしている。
だからここにずっと居る生活も私にとって旅なの、
もうどこかに行く必要はなくなった、と。
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