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世にも不思議な蚕のはなし

更新: / 公開: 2016年8月24日 / 執筆:

えみぃです。
この夏、個人的な体感は「なんだか涼しかったなー」です。
例年だと梅雨明けは地面からモワっと熱気が上がってきて、日中は野良仕事は厳しいのですが、今年は風が冷たくて作業ができていたのです。

陽気のせいだけでなく、冷え取りで体温が上がり気温によって体調が左右されなくなったことも要因の一つかも、そして、絹の肌着やズボン下を身に着けているということも大きかったかもしれません。

絹には、皮膚から出る水分や老廃物を外に出すという機能があり、汗をかいてもべたつかずに心地よく動けます。
絹の主成分はフィブロン、人の生体になじみやすく細胞が再生しやすいという特徴があります。このことから、美容と健康のサポートを目的とした栄養補助食品に使われたり、人工皮膚の研究などもされています。
身近な使い方としては、切り傷や化膿した患部に絹をあてると傷が早く治る、床ずれの幹部に真綿を張り付けると改善するなどがあります。

とまぁ、素晴らしい繊維である絹は、お蚕さんが作る繭から作られます。
蚕さんは家蚕(かさん)とも呼ばれ、今から5,000年ほど前に「クワコ」という野生の昆虫を家畜化したものと言われています。
幼虫は腹部の把握力が弱く、天然の桑にくっついていられません。体色が目立つ白色であるため、野外の桑に止まらせてもほぼ一昼夜のうちに捕食されるか、地面に落下してしまいます。成虫も翅(はね)はありますが飛べません。
人が管理しなければ成育することができない、野生回帰能力を完全に失った唯一の生き物である蚕さん、養蚕なくして絹を得ることはできないのです。

ところが、日本の養蚕業は衰退の一途をたどっています。
関東農政局の資料によると、平成19年には全国で1,169戸の養蚕農家が433tの繭を生産していましたが、平成27年には368戸、生産量は135tまで減ってしまいました。
背景には絹需要の落ち込み、外国産の安い繭の大量流入、そして平成26年に国から養蚕農家への補助金が打ち切られたことなどがあります。
養蚕農家がなくなるということは、蚕さんの絶滅を意味する大変なことなのです。

群馬県では県独自の補助金制度を始めたり、(一財)大日本蚕糸会では蚕糸業と絹織物の一体化(業者が提携して高品質な純国産製品づくりに取り組む仕組みづくり)を支援する、というような取り組みはありますが、未来は明るいものではありません。

絹を愛するものとして、こういった憂うべき状況を打破したいという思いがつのり、思いきってお蚕さんを飼ってみることにしました。

毛蚕7

毛蚕(けご)と呼ばれる、孵化したての蚕さん。

種と呼ばれる孵化直前の卵を購入。翌日には毛蚕(けご)という、体長2mmほどのちいさい虫が出てきます。
この頃は桑の幼葉をちぎって与えるのですが、400匹でも幼葉数枚で済みます。

5齢幼虫

4回の眠を終えて、5齢幼虫になった蚕さん。
毎日1匹で桑の葉を4~5枚食べます。

数日間、朝も昼も食べ続けると、眠(みん)と呼ばれる期間に入ります。
頭を持ち上げたまま約1日静止し、終わると脱皮をします。
これを4回繰り返すと、皆さんお馴染みの白い新幹線のような7cmぐらいの幼虫になり、一週間猛烈な勢いで桑を食べ、繭を作ります。

まゆ

十分に桑を食べると、熟蚕(じゅくさん)と言う状態にな
り、まぶしという枠に入れると、繭を作り始めます。

野菜を収穫するコンテナで飼育していますが、身の回りに桑がなくなると「ないーないー」と首をもたげてぐるぐる動かします。桑のある場所へ移動することもなく、ましてや逃げ出すことはありません。
人を怖がる様子もなく、手でつかんだり手のひらにのせても落ち着いています。
人が世話をしないと生きていけない生き物なんだと、痛感しました。

繭だけでなく、糞も漢方薬や活性剤として使ったり、さなぎは将来重要なタンパク源になるかもしれない。まさに、蚕さんは人のために生まれてきた神秘の生き物。
日本の養蚕農家には、積み重ねた知恵や技術がたくさんあります。
どちらもなくしたくない、微力ながら続けて行きたいと強く思うようになりました。

今年はF1の種からの養蚕でしたが、来年は固定種を育てて自家採取にもチャレンジしたいと思っています。

ちなみに、今回育てた蚕さんは420匹。秋には真綿を引いて、真綿入りのちゃんちゃんこやルームシューズなどを作ってみる予定です。


コラムニストのプロフィール :

循環する生活をめざし、オット&5匹の猫と小諸の泉のほとりに暮らす農婦です。数年前、突然思い立って洋服を全て処分し、着物で生活を始めました。今では家事はもちろん野良仕事も着物です。 たくさん集まった着物を解いて自分用に下着を作ったのがきっかけで、洋服や小物のリメイクの店を始めました。店では自給用に作った漬物や味噌、おもちなどをふるまっています。ぜひ遊びに来てください。

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てしごとどうや:着物からリメイクした服飾品や小物の製作。天然素材の絹は冷え取りにも効果的。「かふぇどうや」オープン!(長野県東御市)

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