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【リラクオーレ通信】湯浅誠さん講演会『格差・貧困と民主主義』を聞いてきました

更新: / 公開: 2013年1月25日 ( ※ 古い情報です ) / 文責:

上田市丸子文化会館で行われた「『格差・貧困と民主主義』― 子育て、教育、介護、地域づくりは人のつながりから。 地道な作業の積み重ねが民主主義を活性化させ、人々の生活を充実させる ― 」という演題で反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠さんのお話を聞いて来ました。
湯浅さんといえば2008年に東京日比谷公園で開設された『年越し派遣村』がニュースになったことも記憶に新しいかと思います。
さて、湯浅さんが提案する豊かな社会とはどんなものでしょうか。

まずは日本の未婚率の話。結婚しない若い人が増えているというのはよく聞く話です。
「結婚はしたくないわ〜」という人はいいのですが、ここで問題になっているのは「したいんだけど、できない」という方のお話。

日本の未婚率は1980年から急上昇し始め、いまや30代の男性では半数が結婚していません。その理由のひとつとして賃金の低下。家族が食べていけるだけのお給料に達しないという現状があります。また雇用の不安定さというのもあります。派遣切りの話もあったように、いつ仕事が無くなるのか分からない状態では、一般的に結婚のハードルは上がります。
また50才代の未婚率も上昇を続けており、男性で2割、女性の1割が結婚しない社会になってきました。今や80代のおじいちゃんとその未婚の50代の子どもといった核家族はあまり珍しくない形になってきています。
結婚したいけどできない人たちが増え、子どもは減り、老老介護は増えてきているというのが現状です。

今さらここで述べるまでもありませんが、戦後の日本の経済はアジアの奇跡と称されたように短い期間での経済成長を成し遂げてきました。急速な経済成長は首都圏に労働力を集約するために、核家族が増加し、出生率は下がるため少子高齢化が進むというわけです。
経済という意味においては、日本を始め先進国はかつて無い成熟した社会を作り上げたのですが、年間の自殺者が3万人であったり、160万人程度のひきこもりの方がいるという現状もあるわけです。また、介護を理由に年間14万人の人が仕事を辞めていくそうです。
つまり、現在の日本社会には、その右肩上がりの高度経済成長のひずみによって引き起こされている問題がたくさんあるのですね。

また日本の1950年、2000年、2050年のそれぞれの人口分布図が提示されたのですが、1950年はピラミッド型、しかし今から37年後の2050年には逆型になっており、その頃には1人の現役世代が1人の高齢者を支える”肩車社会”というのが現実になってくるでしょう。そうした超高齢社社会では当然弱者も増えてきます。本人の努力など関係なしに気がついたら弱者になっていたということも十分ありえる社会になってしまうわけです。貧困問題もそういったところを発端とするわけで、大きなニュースになるのは氷山の一角でしかなく、その下には私たちの生活につながる部分があって、「私には関係ないわ〜」という遠い誰かのお話ではないということを強調されていました。

そこでどうするのか。「昔は良かったね」と懐かしむのではなく、こうした現状は現状として受け止めて対策を考えること。いままで社会が頼りにしていた社縁(会社つながりの縁)、家族、地縁などだけでなく『あたらしい縁』が必要となってくるというのが湯浅さんの意見です。
新しいコミュニティを作ること、新しいつながりを作る仕組み。(それもまた”イノベーション”と呼ぶのだそうです。)それは困ったと感じている人が自らSOSを出せるような仕組みにつながり、結果として社会全体の損失も減るということになります。
第三の縁ということで、取り組む問題によってつながれた縁としての事縁(じえん)という言葉を聞いたこともあります。縦横だけではなく、斜めだったり、飛び越えたつながりが持てるようにする仕組みがこれからの社会で重要になってくるのですね。

また、3万人の自殺で亡くなった方々の経済損失は2.7兆円にも昇るという試算も出ています。自殺者を減らし、ひきこもりの人が社会につながり、介護を理由に仕事を去ることが無くなるような社会にする行動は、一般的に言う経済効果は薄くても、「かくれた稼ぎ頭」だというのが湯浅さんの意見です。

だれもが自分らしく生きられる社会になることが、社会全体がいきいきしてきて、結果、社会への貢献する人が増したり、眠っていた労働人口を増やすことにもつながる。すべての人が幸せを分かち合える社会にこそわたしの幸せもあるわけで、成熟した日本社会に暮らすわたしたちこそが、どのように”豊かさ”をとらえられるか、それが重要なんだなと思いました。