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【リラクオーレ通信】公開講義「日本経済のビジョン:下村理論と持続可能性」を聞いてきました

更新: / 公開: 2013年1月17日 ( ※ 古い情報です ) / 文責:

先日、法政大学で行われた堀内教授の最後の授業「日本経済のビジョン:下村理論と持続可能性」を聴講してきましたので、その概要をご紹介します。堀内教授の師でもある下村治氏は、池田勇人政権の元で「所得倍増計画」を主導した人物として知られていますが、オイルショック以降は、一転して「ゼロ成長」を説いています。さて、その理由とは。。

戦前の日本経済は、金本位制の通貨システムと限られた国家間で貿易を行うブロック経済の元で、低成長であり、好景気と不景気が交互におとずれる景気循環を繰り返す経済でした。この当時の主要エネルギー石炭です。

その石炭は、戦後には安価な石油に取って代わられ、エネルギー多消費型産業が成長していくことになります。また、通貨もIMFによる管理通貨制度となり、貿易に関してもGATT体制(自由貿易)となりました。これらの背景を勘案して計算した結果、下村氏は「日本は年率11%の成長ができる」と提言しました。敗戦後でもある当時、この提言はほとんど相手にされなかったそうなのですが、説明を聞いた池田総理は、この案を採用し、そして実際に「所得倍増計画」は実現されたわけです。

さて、そんな高度経済成長期のさなか、1973年にオイルショックが起こります。安かった石油に依存していた日本経済は大きな打撃を受けることになります。また、大量生産・大量消費による「使い捨て」文化、公害問題を経験し、地球の環境収容力の限界も肌で感じられるような時代となり、環境に対する問題意識が高まりつつある時期でもあったと思います。

この1973年頃から、下村氏は日本経済は「ゼロ成長」路線を進むべきだ、と説きはじめます。「所得倍増計画」を主導した人物が、そのようなことを言い出したので、当時のマスメディアには「どんな心境の変化があったんだ!?」というような捉え方をされたらしいのですが、それは、考え方が変わったわけではなく、ちゃんと理論的に計算すれば導き出せることで、「出来るものは出来る、出来ないものは出来ない」と言っているだけで、理論は一貫しているのだそうです。

今の日本社会は、史上最高の生活水準であることは確かな事実であり、これを維持することに努めよう、というのが「ゼロ成長」の意味です。「これ以上、資源を余計に消費し、環境を破壊してまで経済成長を続ければ、地球の限界を超え、その先には破局が待っているのだから、現状維持した方がより良い結果が得られる。だから、もう経済成長を目指すべきではない。」という事なのですね。う〜む、現実は厳しいですねぇ…。

もうひとつ、高度経済成長期ゼロ成長時代、それぞれの重要なキーワードを3つ紹介していました。それは、高度経済成長期では「イノベーション」「均衡」「自由と自己責任」、ゼロ成長の時代では「イノベーション」「均衡」「節度」であるとのこと。下村氏の言う「節度」とは「全体のために利己心を抑制する気持ち」だそうです。

経済成長して当たり前!とどこかで思わされている私たちですが、「経済成長」というものは、人類の歴史上でみても、産業革命以後のこの200年間にしか起こっていない異常な出来事である、という捉え方も出来ると思います。
これからの社会をどうやって生きていくべきか、どんなバランスで何に取り組むべきか…。そんなことを改めて考えていかなければなりませんね。