トップ >

工房土喜 : 山の懐に抱かれた森の中の土器工房。教室で作陶した後は、茶房パニでお茶をどうぞ (長野県上田市)

更新: / 公開: 2013年4月29日 ( ※ 古い情報です ) / 文責:

 

信州上田の奥座敷、別所温泉からさらに奥へ。くねくねと山道をしばらく登って行くと、そこに野倉という小さな集落があります。
工房土喜」と森の中のカフェ茶房パニ」を営む佐々木さんが、川崎からここ野倉へ移住してきたのは、もう30年も前のこと。そのイキサツはとても興味深いものなので、また後ほど詳しく書くとして…。

佐々木さんが焼き物を始めたのは、移住してきて5年ほど経った頃。最初は教わりに行きながら、自分でも陶器を作り、窯も自分で作り…、そうするうちに少しずつ現在の工房土喜へと繋がってくるわけです。

「『晴耕雨陶』にしたかったんです。陶芸家、というのではなくて、百姓やったり、家を作ったり、『生きる』ということの一部であればいいと思っているんです」

と佐々木さん。筆者もこれからは、全ての仕事をオカネに換金するのではなくて、バランスよく「良く生きる」ことが大切なんじゃないのかな、なんて思っています。そんな生き方を1980年代から実践しているのですから、ここ工房土喜には陶芸以外にもたくさん学べることがあるはずです。

さて、今日は鳥たちのさえずりがとても耳に心地良い、山々を見渡せる工房土喜のテラスでお話を聞くことになりました。佐々木さんは素敵な器にお茶を注ぎながら話しはじめます。

「このお茶は熊笹なんですよ。熊笹はこの辺では、あっという間に増えちゃうんです。僕ね、熊笹とか、桑の葉とか、柿の葉とか、どくだみとか、色々ためしているんですよ。ブレンドとかしたりしてね。スギナでもなんでも、そういう生命力の強いものはカラダにもいいみたいですね」

頂いた熊笹茶はクセもなくとても飲みやすくて美味しく感じました。雄大な自然の中で飲む一杯のお茶は、やはり格別なのです。ここに漂う様々なエネルギーもお茶と一緒にカラダの中へ注ぎ込んでいるような、そんな命のチカラを頂きながら、お話は進みます。

楽しくてやさしい工房土喜の作品

佐々木さんの作品はどれも土そのものの持つ力強さの中に、優しさやユーモアが練りこまれていて、手にしているとあたたかい気持ちになるものばかり。たとえば、可愛らしい顔の口の中に入れる蚊取り線香入れは、そのツノのような部分から煙が立ち上がります。陶器の隙間からこぼれる光を楽しむランプシェードもとても楽しくてキレイです。併設されているギャラリーには陶器でできた楽器などもおいてあります。

そんな作品たちのもつ空気感は、工房土喜の作品からだけではなく、茶房パニの建物・インテリア・庭、メニューなどからも感じることが出来るというのが、また素敵なんです。もちろん、茶房パニで使われている器もすべて作品なので、お食事や飲み物を飲みながら器も楽しんでくださいね。

価値観が足下から崩れていったインド・ネパールへの旅

佐々木さんは二十歳の頃、魅力を感じていたインドに旅に出ます。この頃は、ベトナム戦争への反戦運動に端を発した『ヒッピー文化』も終盤に差し掛かっていた頃。でも、佐々木さんはこの旅で出会うまで”ヒッピー”という存在を知らなかったのだそう。だからこそ、そこで出会った、世界中から集まってきていたヒッピー達との出会いが衝撃的なものになったのかもしれません。

そして、この旅の中で触れた、インドやネパールでの、自然に寄り添い、全てが循環しながら、互いに支えあい、共生している社会をみて、それまで日本の日常で体得してきた価値観がガラガラと足下から崩れ落ちて、「これが本当の人間の生き方なんだなぁ」と感じたのだそうです。

養鶏からスタートし、焼き物、そして喫茶店へ

一度はご両親が川崎で経営している会社を継いだ佐々木さん。しかし、心身ともに疲れ果ててしまい、勤め始めて一年が過ぎた頃には、体を壊して入院してしまいます。「このままでは死んでしまうかもしれない」と思い、野倉での平飼い養鶏場のアルバイトを足がかりに、26歳の時、川崎から移住を決意します。そして、その一年後には自ら養鶏を営むようになったのだそう。

「最初は有機農法で安全な食べ物を自分たちで作りたい、というのが目的だったんです。鶏だったら鶏糞も取れますしね。餌も別所温泉で出た残飯とトウモロコシと発酵菌を混ぜて作ってました。それで、卵と自家製パンの宅配をはじめたんです。それと並行して焼き物も習い始めて、窯を作って焼き物もやるようになりました」

そんな生活の中から作り方のノウハウを習得していった有機野菜や、天然酵母パン、子どもたちのための安全でおいしいケーキ、それらをのせるための器、過ごしやすい居住空間…。佐々木さんの手作りを大切にしてきた暮らし方がそのまま、現在の工房土喜と茶房パニにつながっているのです。そんな自然体の生き方が、お店からも伝わってくるから、お客様の心もほどけて、とても心地よく時間が過ごせるのでしょうね。

ちなみに、工房土喜で焼かれた作品は茶房パニの庭先にも展示してあります。

作品の販売だけでなく、陶芸教室もやっています。

「消費する」ということの意味は、時代ごとにが変わっていくものです。そもそも、「消費する」とか「消費者」という言葉自体が、経済優先主義的な言葉だと思うので、あまり個人的に好きではないのですが…。それはさておき、現代では「モノを所有する」ということ自体に、消費者はもう辟易としているのではないかな、と思うことがよくあります。佐々木さんも「たまにゴミ作ってるんじゃないかな、と思うことがあります」ということをおっしゃっていました。

でも、自分が作りたいように、心をこめて作ったものだったらどうでしょうか。お茶碗ひとつにしても、大量に生産されたものをパッと購入するのとは、だいぶ違いますよね。そうやって、本当に必要なものを必要なときに、必要な分だけ作る。そこには、モノ自体の価値だけではなく、むしろ、つくり上げる過程や、人とのつながりなどのお金では計れない価値の方が、意味を持ってくるのではないか。と、そんなお話をしていました。

工房土喜の焼き窯も、佐々木さんが少しずつご自分の手で作ったもの。建築廃材などもそのまま焚けるよう、炉が長く作られています。役目を終えた木材を、ただのゴミにしないで有効に利用することもまた、消費のあり方を考えさせてくれます。

そんな工房で佐々木さん、あるいはご自分が作った器で日々の生活を過ごせることの贅沢さを一度味わってみてはいかがでしょうか?佐々木さんの作品は、茶房パニの他に、別所温泉の「ギャラリーつくる屋」、長野市の「ゴーシュ」でも展示・販売されていますので、こちらも覗いてみてくださいね。

お店からのヒトコト

何でも作ることが大好きで、新しい事、まだ誰も見た事もない物を考えるだけでもワクワクします。

そんなワクワクする気持ち、ひとりだけではもったいないので、他の人とも共有できたらと思い陶芸教室のアトリエdokiを行っています。

店主・佐々木義之

webサイト http://pani.jp/
電話番号 0268-38-3830
住所 〒386-1437 長野県上田市野倉524-1
営業日 4月〜11月の 土、日、月、火曜日 と 祭日
( 12月〜3月 は冬眠します )
営業時間 11:00~16:30