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四季の風景の中に命を感じ、内なる情動を紡ぐ「白井ゆみ枝 上田全天氣候展」開催中! @サントミューゼ上田市立美術館 〜4/16

公開: ( ※ 古い情報です ) / 文責:

上田市在住の画家・アーティストの白井ゆみ枝さんの大規模個展『上田全天氣候展』がサントミューゼ上田市立美術館で開催されています。

©KAZUTO KAKURAI

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白井さんは、2013年に上田市の笠原工業常田館製糸場他で開催された詩と絵画のコラボレーション・プロジェクト「ヒトノユメ in 長野」を、元チャットモンチーで詩人の高橋久美子さんと一緒に主催し、地域とつながった素敵な時間を紡ぎだしました。 あれから3年、上田市の新しい文化の拠点となったサントミューゼで、どんな魅力的な展覧会を見せてくれるのでしょうか。

まず言えるのは、この展覧会、よくイメージする薄暗い展示室で一つ一つの絵と向き合い、咳ばらい一つすることに気を遣うというような展覧会とはずいぶんと趣が違うということ。
展示会場全体の空間が優しくも刺激的、そして様々な想いが込められた白井ワールドに演出されていて、その空間に身を委ね、時に立ち止まり、時に俯瞰することで、様々な感情を呼び覚ましてくれます。

©KAZUTO KAKURAI

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タイトルは『上田全天氣候展』。会場は4面に分かれていて、それぞれ東=春、南=夏、西=秋、北=冬として描かれています。日本人なら持っている東西南北の普遍的なイメージに上田を重ねると、さらに季節が重なってきたと言います。そして、そこにある風景とか生活とか想いといったすべてを込めらる言葉として浮かんだのが「全天氣候」だったとのこと。

実はヒトノユメ展で描いた絵が、もう“北の絵”になったんですが、そのときから東西南北を描きたいという想いがあったんです。自分のアトリエで制作していると、そこが私の中心で、そこから東西南北を想像したら、上田を描くことが自然と浮かびました。今回の展示には、いろいろな要素が詰まっているので、そのうちのどれかにでも想いを寄せてもらえれば嬉しいですね。(白井さん)

確かに、故郷である上田の風景がモチーフになってはいますが、山や川や四季の移ろいは、誰しもの心に宿る原風景であり、そこからは人それぞれに様々な印象と共感を受けることでしょう。

©KAZUTO KAKURAI

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展示は、東西南北それぞれにタイトルがついています。
■東=春『いのちはる』
東は日が昇る一日の始まりの方角であり、芽吹きの春は始まりの季節。春になると、田に水が張られて、空が何倍にも広く明るく感じられ、植えられた苗に命を強く感じます。山型キャンバスは烏帽子岳をイメージしているそうです。「この絵がいちばん、ここにいる自分が感じることを描いています」と白井さん。
■南=夏『いくなつづく』
長い壁面を黒く塗って千曲川の流れを表現していて、この会場だからこそやろうと思った表現だとのこと。南はいちばんあやふやで、つかめない。でも、そのつかめなさ加減が特徴。一つのイメージを決めるというよりは、黒い千曲川の流れの中に白井さんの2〜3年の間に感じた日々の記憶が漂っているそうです。なので、ほかの方角に比べてよりエモーショナルなものを感じます。
■西=秋『あきあきみつる〜夕焼けをつかまえる!〜』
陽が沈んでいく西。アキルとは、飽和して満たされて終わるということだとか。山に夕陽が食べられてしまうような感覚から丸い絵を円状に並べ、中心のない作品を作ったそうですが、「この作品の作り方は次に向かっていくヒントになりました」と白井さん。白井さんの色使いは、優しい中にもインパクトを感じますが、描くとき色のイメージは設定しないそうです。なので何色と特定できない色合いになります。確かに自然界の色は、何色と決められない、いわば光の色ですよね。白井さんは、その光の色の微妙なニュアンスを表現しています。
■北=冬『たましいふゆる』
北に目を移すと、大きな白い幕が垂れ下がっています。上田市の北にある太郎山の逆さ霧をイメージした「風幕(おとまく)」の原画を大きくプリントしたもので、北の絵をベールに包みながら私たちを誘います。実は「風」の字はオトとも読むのだそうです。まさに魂が増える冬、  鎮まりし時にこそ自身の内面は充実します。絵からは、何かが生まれ出ようとしている蠢(うご)めきを感じます。北極星に自身の身体を重ねてグルグルと回る永遠の輪廻をも表しています。

会場で大きな存在感を放つのが白く丸いテント『SKY ENA HOUSE』。ヒトノユメ以来2回目の登場です。中に入り、周りを囲む絵を見ていると、小さな宇宙に身を置いている感覚になります。ENA=胞衣(胎児を包んだ膜と胎盤)。テントに続くENA Tunnelを「産道みたいだ」と表現した人がいたとか。するとテントは子宮かな?
そして、会場の中心には初の立体作品である『赤を宿す』。会場内のインパクトとしての赤!  命を支える心臓みたいにも思えます。「絵は自分の本分でもあるために考えすぎてしまうこともあるのですが、立体は自由な発想ができて楽しいです」と白井さん。

©KAZUTO KAKURAI

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メイン会場の手前にある「RHIZOME ARCHIVES(根っこの記録)」には、白井さんが作家を志した頃の作品を展示してありますが、絵本『今もなおやってくるその前に』や『明日のたまご』などは、本展示とは趣が違う、刺激的で不思議な世界観が表現されています。ぜひ、忘れずにご覧ください。(美術館内のミュージアムショップでオリジナル本の販売をしています)

ヒトノユメ以来の出会いの中で、多くの方々とのコラボレーションによってこの展覧会が実現しました。会場に来てもらった人が楽しんでもらえるよう空間演出も工夫しました。えっ? 何??  みたいに思って関心を持っていただき、一つ一つの絵も観ていただけたら、うれしいですね。(白井さん)

老若男女、大勢の皆さんに観ていただきたい展覧会です。きっと楽しい時間を過ごせますよ。

白井ゆみ枝 上田全天氣候展
  • 【日程】
    • 2月23日(木)〜4月16日(日) ※火曜日休館
  • 【時間】
    • 9:00~17:00(入場は16:30まで)
  • 【料金】
    • 一般 800円/高校・大学生 500円/小・中学生 300円/未就学児 無料
  • 【会場】
    • サントミューゼ上田市立美術館2F展示室(長野県上田市天神3-15-15)
  • 【問い合わせ】
    • TEL.0268-27-2300

★お知らせ〜★
◎高橋久美子×白井ゆみ枝 ―終わらない話―
3月19日(日) 14:00〜15:00
ヒトノユメ展から3年。一緒に活動をしてきた高橋久美子さんとの対談があります。二人が今想うこと、これまでやこれからについてなどを語ります。
※事前予約不要(要観覧券)

◎作品をイメージしたオリジナルメニュー登場
サントミューゼのカフェ(ロジェカフェ上田店)では、上田全天氣候展の作品をイメージしたオリジナルメニューが期間中に登場! メニュー名は白井さんが付けました。
メニュー:《真冬から南のソルベ》《明日のパイナップルクリームソーダ》《COSMIC BANANAガレット》